沖縄本島に住んでいる人は、なんだか最近急に鉄軌道や支線バスの整備の話が盛り上がっているような雰囲気を感じているんじゃないかと思います。
琉球新報には鉄軌道をはじめとした公共交通の整備で車依存から脱却する将来像を描く連載が始まり、家庭や企業には「おきなわ鉄軌道ニュース」というタブロイドが配布され、パブリックコメントの募集も始まり、各市町村役場や道の駅、高校・大学や商業施設には鉄道に関するパネルが展示されています。
実際のところ、那覇市ではすでに東京大阪名古屋の三大都市圏よりも酷い交通渋滞が起きて、年々酷くなっている中で、開通までに10年も20年もかかる鉄道計画は待ったなしの状況のはずで、ネックとなっているのは沖縄県民の危機感の欠如ではないかと思ったりもします。
東京や大阪が、欧米の都市工学の考える限界を超えた規模で発展し、しかも都市問題が少なく済んでいたのは紛れも無く鉄道網の優秀さが理由にあると思います。これは私が6年前くらいに読んだ増田悦佐氏の「日本文明・世界最強の秘密」に感化された考え方ではあるのですが、やはり自家用車というのは空間効率とエネルギー効率が悪く、過密都市を健全に保つためには「大量輸送手段」は間違いなく必要なはずです。
ここで、「交通渋滞問題」に対して鉄道が必要、という考え方には2通りの「交通渋滞問題」があるのだと思うわけです。
ひとつは、交通渋滞の中で通勤や移動という負担があり、県民生活にとっての問題であり、解決しましょう、という考え方。もう一つは、交通渋滞により移動の効率が落ちたり、交通マヒ状態に陥った場合、人の移動も物流も滞り、経済的損失があり、最悪酷くなれば経済システム自体が成立しなくなってしまうという、経済活動のリスクに対する問題。
前者は、後者に対して圧倒的に危機感が少なく、おそらく殆どは、自分は車に乗るのをやめるとは全く思っていない。後者は、鉄道ができるまではバイパスの整備や路線バスの活用などでなんとかやり過ごさなければいけないということもわかっているはずです。この両者は同じ問題を重視しているようでいて、進め方ややり方で非常に対立します。
経済振興のためにやるべきだという人たちもたぶん2種類いると思います。まず、単純に那覇からの移動が便利になるから沖縄全体の経済にいいよね、という考え方の人。すごく普通の考え方ではあります。しかし、もう一つの考え方が大事で、鉄道駅というのは、移動する人間が「圧倒的に集中する場所」という特徴があり、これがものすごい効果をもたらします。いわゆる「駅前」というスポットですね。
「主要駅」の「駅前」があることによって、その場所では圧倒的に多様なビジネスが成立するようになります。1日10万人の人通りがあるならば、1万人に1人しか見向きもしないようなジャンルの商売があったとしても、1日10人の客が見込めることになるわけです。それにより様々なサービスや商品が供給されるスポットが生まれ、「駅前」の魅力は増していき、正の循環が生まれることが期待できます。地域社会、文化にとって、単なる交通機関という次元を超えた影響があるわけです。
東京や大阪の経済をよく観察し、また欧米諸国と比べて何が違うかといったことを考えたことのある人にとっては、これはよく理解してもらえる話だと思います。しかしいかんせん沖縄にはそういった人たちの数はやや少なく、ましてや沖縄出身者でなければほとんど首長や地方議員になるのは極めて困難といった状況ですから、いまいち鉄道の強力さが理解されにくいところがもどかしいところです。
北部振興策としての鉄道というのが、どうも沖縄県としては一番強調しているような感じがするのですが、もちろん効果はあるとは思いますが沖縄市から那覇市にかけての人口密集地における効果とは比べ物にならないほど意味が薄いでしょう。
この北部振興強調のせいで、採算が合わない合わないという話になっていて、中南部だけでとりあえず早期に開通すべきなのですよ。以前にも書いたように、まずは浦西~コザまで、次に南は那覇空港、北は石川まで、そしてうるま市や恩納村が充実した時点で初めて北部へ向かうべきだというのが私の考えです。
鉄軌道には様々な側面があるので、ある面では、ある時点では効果的でも、また別の面、別の時点では無駄だったりすることがあるわけで、県も、もう少し戦略的にやらないといけないと思いますね。