マーケティングという言葉がかなり広義なので、いろいろな捉え方が出来てしまうのがかえって厄介なのかなあ、と思います。
マーケティングは本質的に戦略的なものでないといけないですが、経営戦略の領域と重なるために、マーケティングという言葉がセールス寄りに、つまり戦術論的に解釈されてしまいがちなのではないかと思っています。
マーケティングの戦略の要素をおさらいしていきます。
「戦略」=”Strategy”は、自社と競合他社との競争に、どうやって勝つのかということです。この際、この「競争」とは、顧客の奪い合いの競争であると仮定して考えることになります。
その中で、「3C分析」と「SWOT分析」を行うことが必要ですが、世の中の企業の多くは、これを行っていません。つまり、「3C」= Customer, Competitor, and Company がどのような状況なのかを明確に把握せず、事業の「SWOT」= Strengths, Weaknesses, Opportunities, and Threats が何なのかを明確に認識していない状態で事業をしているということになります。どう考えても恐ろしいですよね。これは、多くの「うまく行っているように見える」事業が5~10年程度で潰れてしまう大きな原因の一つでしょう。
実は経営者がこの辺のことがわかっていなくても、KSF (Key Success Factor)、つまり重要成功要因を一時的に満たしてしまうので、持続不可能な事業が生まれては消えてしまうということになります。そもそも市場に参入するということは、何かしら勝算があって参入するわけです。例えば消費者にとって圧倒的にメリットがある画期的な新商品であれば、経営効率が悪かろうがマーケティングのスキルが弱かろうが勝ってしまうわけです。
しかし、時代とともに画期的な新商品であっても陳腐化していき、戦略がしっかりしたところが勝つようになってくるわけです。そうなったときにしっかりと戦略を見直して改革し、立て直すことができる企業は良いのですが、多くの企業が成功体験に囚われることによって改革ができずに没落していくといったことになるわけですね。
事業拡大の時にもこの罠に嵌ります。画期的で、エンスージアスト層やアーリーアダプター層に人気の商品が、普及期に入るといつの間にか他社に完全に市場を取られているといったことが起きます。
琉球大学の「戦略的マーケティング」の講義では、競争優位を獲得した企業として「ジャパネットたかた」が挙げられました。ジャパネットたかたは、自分が思うに家電量販店や通販サイトと全く違うのは、1つの商品を集中的に取り上げてセールスするクロージング力と、売れない格安商品を抱き合わせ販売で積極的に処分するという商品設計力の2点ではないかと考えています。知名度やエンターテイメント性、仕入れ競争力といったものはそれらを活かす上で戦略的に生み出されたものであって、特徴的という感じはあまりしない。
なぜジャパネットたかたが持続可能っぽいかと言うと、一時的に優位に立った時点でテレビ放送枠の確保、セールスマンの育成や自社スタジオの設置など、他社に追随されて負けないための方策を打っている姿勢が見えるからでしょう。もし、たまたまスポットCMでうまく行ったことに胡座をかいて同じことを繰り返していたら、今のジャパネットたかたの地位はなく、とっくに模倣した他社に負けていたはずです。
セールスがうまく行ったことを、マーケティングがうまく行ったと勘違いしてはいけない。マーケティングを戦略的にきちんと行わなければ、持続可能な競争優位はあり得ないということですね。