「産業」とは、「同じ消費者需要を満たす企業の集合体」のことだそうです。この「同じ消費者需要」というのが、「同じ商品」を指さないので「○○産業」という言葉でかなり狭い範囲から広い範囲までを指すことがあるのでしょう。

 参入しやすい産業には、多数の企業が参入します。小売りや飲食業などは日本中に何十万という企業がありますね。一方で自動車メーカーや空調機器メーカー、航空会社は10~20社程度だったり、航空機メーカーはたった1~2社、電機メーカーは数十社程度です。参入障壁の高さが参入企業数に大きく影響しています。
 経営論的には参入企業数が多いほど競争が激しく、少なければ競争がそれほど激しくないということになるようですが、それは実態とはかけ離れている気がします。果たして航空業界より飲食業のほうが競争が激しいでしょうか?
 これは、「産業」という言葉がどうしても実質的な市場の大きさと関係なく業種にフォーカスしていることによる気がします。例えばコンビニエンスストアであれば商圏である半径1~3km程度の範囲内でしか競争は発生しないわけで、「産業」の大きさや参入企業数とは若干かけ離れていることになります。半径1km以内でセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、サンクス、デイリーヤマザキ、スリーエフ、ジャストスポット、ポプラなど多数のコンビニエンスストアが確かに競争しているわけですが、ANAとJAL、スカイマークという少数企業が羽田~新千歳間で行っている熾烈な競争とは比べ物にならないはずです。
 オリオンビール創業者である具志堅宗精氏は、ビール工場を沖縄に建設するときに既存の日本のビール会社からかなりの抵抗を受けて苦労しています。機械を高額でしか売らないようにされたり、沖縄の水では良質なビールは作れないなどといった根拠の無い情報を投資家に流されたりといった具合です。
 要は、基本的に企業は競争の激しい状況に身を置きたくはないわけですから、特に寡占状態であったり少数しかいない産業であれば、既存の企業は新規参入を阻んで競争が激しくない状態を保とうとするということではないでしょうか?ANAやJALはスカイマークやエア・ドゥの参入に抵抗しましたし、最近でもデルタ航空がスカイマークの経営に参画しないようにあからさまに動いていました。(個人的にはスカイマイルがメインなのでクソ悔しいのは置いておくとして)折角の国内スカイチームメンバー誕生のチャンスがなくなって非常に残念だと思います。デルタ航空参画であれば、もっと国内の競争が激しくなったのになあ、と思います。参入企業数が少ない業界では、こういうことが起こるということではないでしょうか。
 「参入障壁」を特別視せずに、参入可能な能力を一つの経営資源として捉えればいいだけかと思います。特に情報資源が主になるわけですから、参入障壁に関わる部分は競争優位を保つ部分として重要な場合が多い、と考えればいいのではないでしょうか。