私も沖縄に引っ越してから来週で丸3年になります。沖縄県に来てしばらくは気にならなかったことが、3年もすると気になってくることもあります。

その一つが、「フランスパン(バゲット)が売っていない」ということです。

フランスパンにオリーブオイルなりバターなりをつけて、何ならちょっと胡椒とかバジル、おろしにんにくなんかを乗せて軽く焼いて安いワインと一緒にいただくというのが安酒呑みにはたまらないわけです。人によりますが。

20歳くらいの頃であれば、お金もなくて腹にたまるものをとにかくローテーションしていましたから、歯ごたえがあって満腹感が得られるフランスパンは当然そのローテーションに入っていたものです。人によりますが。

ところが沖縄ではコンビニやスーパーのパン売り場に行ってもバゲットは売っていない。サンエー・かねひで・ユニオン・ローソン・ファミマと探し回っても無い。私にとっては信じられないことだったのです。

日本の大手製パン会社が全く入ってこない沖縄

なぜフランスパンが売っていないのかと考えたときに、そういえばヤマザキパンとか神戸屋のパンを沖縄で見かけないなと思って調べたら、県外の製パンメーカーが一切入ってきていないという事実を知りました。

ヤマザキパンを知らないウチナーンチュ

パンと言えば圧倒的にヤマザキ。山崎製パンは2015年は売上高7000億円を超え、グループの連結売上高は1兆円を超える世界でも有数のパンメーカーです。
ヤマザキパンのヒット商品は多数あり、日本人のほとんどが知っていると言っても過言ではありませんが、沖縄県で生まれ育った人はほとんど知らない場合も多いです。
・ダブルソフト
・新食感宣言
・ランチパック
・ナイススティック
・北海道チーズ蒸しケーキ
・まるごとバナナ
・イチゴスペシャル
・スイスロール
このあたりの押しも押されもせぬ名作の数々は、沖縄では購入することができません。そしてヤマザキパンの発売するフランスパン(バゲット)である「パリジャン」は全国のスーパー・コンビニで販売されていますが、沖縄では販売されていないのです。

沖縄では沖縄県内の製パン業者がすべて作る

同様に業界2位で売上高1700億円の敷島製パン(パスコ)も、業界3位で売上高1200億円のフジパンも入ってきていません。
沖縄県の製パン大手と言えば、売上高130億円の「オキコ」、売上高50億円の「ぐしけんパン」が2強で、次いで売上高10億円の「第一パン」といったところです。
パスコの「超熟」は沖縄県内で販売されていますが、これは「オキコ」と敷島製パンが技術提携しており、敷島製パンのライセンシーで製造販売しているもので、あくまで「オキコ」の流通があって販売されているものです。
全国展開のブランドであっても、沖縄だけは沖縄の企業からの供給というパターンは多いようです。
全国のファミリーマートやローソンの菓子パンの多くは山崎製パン、敷島製パンや神戸屋などが製造していますが、沖縄ファミリーマートやローソン沖縄ではオキコやぐしけんパン等の沖縄県の業者が製造します。

離島だから仕方ない?

確かに船便で輸送すると時間がかかります。鹿児島の志布志港から沖縄本島まででフェリーで25時間以上もかかる距離ですから、輸送するのは大変です。
しかし小笠原諸島の父島でもヤマザキパンやパスコは売られているといいます。これは冷凍して輸送するそうで、パッケージに表示された賞味期限が切れたものが販売されているそうです。
父島にもベーカリーはありますし、パン自体が食べれないというわけではありませんが、大手の作るさまざまな菓子パン類は魅力的なのでそこまでして流通しているわけです。
沖縄でも冷凍しないと輸送できないかというと、そういうわけでもありません。なぜなら、パンの賞味期限は夏季で3~4日ほどですが、同じくらい足が早い県外の肉や野菜も普通に流通しているからです。
これは、沖縄は離れていると言っても100万人以上の大規模な市場なので冷蔵コンテナでの大規模な輸送が十分に機能するからです。
ちなみに香港やシンガポールでも一応日本のヤマザキパンを買うことができます。島国ですが500万人以上の大市場ですし、所得も高い地域ですから、日本産の野菜や魚と並んで流通が成立するわけですね。

オキコパンとぐしけんパンの存在が進出の壁

こう言っては変かもしれませんが、沖縄県内の2強、オキコとぐしけんパンは県内需要を満たすべくかなり頑張っているメーカーです。自社ブランドのフルラインアップに加えて県内コンビニ・スーパーのOEMも担っており、国内大手がいないにもかかわらず県外と比べて一見見劣りしないほどの状態を作っています。
両社とも昭和20年代、戦後間もない頃の米軍統治下の時代に創業した老舗です。この2社がしっかりと需要を満たして、大手の進出を阻んでいると言えます。

沖縄県民の声に沿って偏っていったラインアップ

両社とも、県外ではメジャーなのにコモディティ商品にラインアップされていないジャンルがいくつかあります。例えば以下のものです。
・フランスパン(バゲット)
・バターロール
・レーズン食パン
・チョココロネ
・カレーパン
・アップルパイ
OEMでは両社とも普通にこれらのほとんどを製造していることを考えると、作るのが苦手というわけではなく、コンビニチェーンやイオンが沖縄に進出してくるまで、沖縄県の消費者からこれらを求める声が少なかったのだろうと思います。
一方で、安くて甘くてボリュームがあるような菓子パンの類はかなり充実したラインアップになっています。マーガリンと砂糖がたっぷり塗られたものが、沖縄の菓子パンのメインストリームです。
県外から進出してきたイオンやコンビニは、潜在需要を見てマーケティングしますから徐々にラインアップは広がっていっているという状況でしょう。

台湾へも技術供与し、グローバルに展開するかもしれないオキコ

2015年12月に、台湾ファミマがコーヒーとパンの組み合わせで客単価アップを図るとしてUCCのコーヒーを導入したのに続いてオキコとの合弁会社を設立するというニュースが流れました。
台湾ファミマは2016年2月時点で2,985店舗という規模で展開していて、沖縄県内の全コンビニの5倍もの店舗数があります。パンだけで年間で売上は50億円にも達するのではないかと思われますので、それだけオキコの技術力が評価されているということでしょう。
この件についてはオキコが沖縄県内で協力する沖縄ファミリーマートとの関係が大いに関係している可能性があると思っています。
沖縄ファミリーマートの親会社は、51%が沖縄県で百貨店を運営するリウボウという会社です。この会社のホールディングスの社長である糸数剛一氏は、沖縄ファミリーマートを200店舗にまで拡大した立役者であり、米国ファミマの立ち上げを成功させた人物です。
リウボウは台湾の百貨店である太平洋そごうとの提携を進めたり、沖縄発の洋菓子やアイスクリームを台湾へ展開するなど、台湾市場を重視した展開を進めています。沖縄ファミリーマートと台湾ファミリーマートとの関係性が強いのはリウボウグループの影響でもあるでしょうし、糸数氏はその経歴からファミリーマート全体に対して影響力があるのではないでしょうか。

結局なんでフランスパンがないのか

OEMでバターロールやカレーパンはたくさん作られているのに、フランスパンだけはベーカリーに行かないと売っていません。結局なぜなのか、明確な答えはないと思うのですが、今のところの考えを書きます。
そもそもフランスパンは全国的にもそこまで数が出る商品ではなくて、コンビニでも1日1本売れるかどうかという商品なのだと思います。そう考えると、沖縄全体でも1日でせいぜい500本程度の売上しか見込めない商品かも知れません。
ましてやどうしても欲しい人はすでに行きつけのベーカリーで買っていますし、味ではそちらに勝てないわけですから、リスクを考えると新規参入する魅力がある商品ではないということでしょう。
東京や大阪であれば1日1万本以上売れる市場だとすれば魅力がありますが、沖縄は大手が参入するほどの市場ではないということになります。

市場が大きければ、商品のバラエティが増える

パンに限らず、市場の大きいところにはいろいろな商品やサービスが進出してきます。そしてより便利で魅力的な場所になり、人も集まり市場がさらに大きくなっていきます。4兆円規模の沖縄市場より、30兆円規模の香港やシンガポールへと商品やサービスはどんどん集まっていきます。
沖縄を盛り上げたいとか、沖縄を便利にしたいというのであれば、最近のUSJの話などもそうですが、沖縄へ進出したいという奇特な企業には親切にして協力しないといけません。県外企業の進出は良し悪しあるのは確かですが、黙っていれば沖縄は沈没します。
沖縄市場が2倍3倍と大きくなって、フランスパンが普通に売られているようになるといいなと思います。