沖縄経済が今後、高度な生産性向上を果たさなければならないという状況の中で、沖縄はシンガポールなどの都市国家やプーケットなどの観光地の成功例を見習っていこうという風潮があります。大変けっこうなことだとは思うのですが、根本的な効率の良さを目指すグランドデザインが無いまま、今の行政体制でできる小手先のことだけを中途半端に行っているというのが実体だと思います。
これから大注目の「エストニア」という国
ICTや電子政府といったキーワードに敏感な人にとっては、最も進んだ国としてすでに有名なエストニアですが、一般に広くその凄さが理解されてはいないと思います。旧CIS諸国では最も目覚ましい発展を遂げたエストニアですが、まだ先進国の水準には達していないため、まだ注目を集めるのはこれからといったところでしょう。とはいえ、購買力平価では既に一人あたり3万ドルに近い水準で、東欧諸国でも豊かな国の一つです。
エストニアが注目されている最も大きな理由は、その徹底して電子化されている電子政府です。特徴的な点だけを挙げても、
- 起業の法人登記はオンラインで、30分で完了する
- オンラインで確定申告をしている人の割合は95%を超える
- 電子申告から3日程度で還付金が振り込まれる
- 全ての医療記録が一元化されて保存されており、8割以上の医療機関で共有されている
- 電子処方箋で、通院しなくても持病の薬などを保険適用で購入可能
- 大学などの入学願書はポータルから提出でき、成績などは自動的に参照される
- 閣議はペーパーレスで、国外からでも参加可能
- エストニアに在住していなくても、完全に国外からエストニア国内の会社を運営でき、納税などの行政手続を全てオンラインで行うことができる
このように日本などの国からすると信じられないレベルで電子化が進んでいます。日本政府も含めて世界中の政府が、このエストニアに学ぼうと頻繁にエストニアを訪れています。
沖縄とエストニアの共通点
エストニアは、ソ連からの独立後、貧しく、資源もなく、人口も少ないという地域でしたが、ITへの集中投資と徹底した効率化という選択により旧CIS諸国で最も成長した国となりました。
日本で最も所得の低い地域の一つである沖縄は、このエストニアを見習って徹底した効率化をすべきではないかと思うわけです。沖縄とエストニアには似た部分があります。
- 人口(沖縄 145万人 エストニア 133万人)
- 一人あたり購買力平価GDP(ともに約300万円)
- 輸入依存の状態(GDPに対する輸入の割合 沖縄約47% エストニア約64%)
- 広い地域に人口が分散(沖縄は離島、エストニアは人口密度が低い)
- 資源に乏しい
- 行政を横断的に扱う組織(沖縄総合事務局とエストニア中央政府)
- 隣国の脅威(中国、ロシア)
エストニアは生き残るために、徹底した効率化という道を選びました。沖縄は、米軍や日本政府の財政状況によっては簡単に危機的状況に陥る可能性がある状況ですから、エストニアと同様に、根本的な部分の効率化を進めることが必要だと思います。
EUのゲートウェイとしてのエストニアと、日本にとっての琉球・沖縄
エストニアは2004年にEUに加盟しており、先程のような起業や納税の利便性のため、EU圏内に進出したい企業が拠点を構えるなどしています。EUは16兆ドルの経済圏であり、域内での自由な交易や往来が可能ですから、その中に拠点を構えることはグローバルな商売をしようとする企業にとって価値のあることです。
エストニアは居住者以外が「電子居住」できるe-Residencyという仕組みがあり、エストニアが他国のパスポートを確認して身分証のeIDカードを発行しています。今、EUを離脱しようとしているイギリスではこのeIDカードを取得してEU市民としての身分を確保しようという動きもあります。
沖縄はもともとその地理的な位置関係もあり、中世は中国や東南アジアから日本へのゲートウェイとも言える存在であったとも言えると思います。沖縄でエストニアのような起業の利便性や電子居住の仕組みが実現できれば、単独で4兆ドルの経済圏である日本市場へのゲートウェイとして世界中の企業が注目するような存在になることが可能ではないでしょうか。